セラピストとして活動していると、多くの方からこうした声をいただきます。
「この辛さをどうにかしてほしい」
「早く苦しみから抜け出したい」
かつての私自身も「苦しさ=悪いもの」「なくさなければならないもの」と思い込み、必死に避けてきました。
でも、セラピストの養成をしながら気づいたのです。
苦しさを悪と決めつけ、表面的な解決ばかりを追い求めてしまうと、本当に大切な成長の機会を逃してしまうということに。
苦しさを避ける本能と落とし穴
人間は、誰でも「苦しいことは避けたい」と思うものです。
心理学でいう「防衛機制(defense mechanism)」が働き、少しでも不快や痛みを感じるとシャッターを下ろすように本質から目を背けてしまいます。
- 仕事で繰り返す人間関係のトラブル
- ダイエットや健康習慣の挫折
- お金の問題や同じ失敗パターン
これらは「目先の苦しさ」を取り除くだけでは解決しません。
根っこにある「なぜ繰り返してしまうのか」という課題を見つめなければ、形を変えて何度でも現れてしまうのです。
セラピストが苦しさから逃げるとどうなるか
実はこれは、支援する側にも当てはまります。
セラピスト自身が自分の苦しさから逃げていると、クライアントと本質的な部分で向き合えなくなり、結果として「一時しのぎのセッション」を繰り返すことになってしまいます。
クライアントの表面的な不安を和らげることはできます。
しかし、 「必要な苦しさ」「次に進むための苦しさ」 を共に受け止められなければ、本当の成長にはつながりません。
苦しさが成長を促す理由
苦しみは必ずしも「悪」ではありません。
むしろ次のような理由で、成長に不可欠なエネルギーになります。
- 苦しいからこそ向き合える
- 苦しいからもがき、気づける
- 苦しいから新しいやり方を探す
心理学では「心的外傷後成長(PTG: Post-Traumatic Growth)」という概念があります。
大きな逆境やストレスを経験した人の多くが、その後に「価値観の変化」「人間関係の深まり」「人生の意味の再発見」などの成長を遂げることが研究で示されています。
つまり、苦しさは次のステージへ進むためのサインでもあるのです。
私自身の体験:出張で得た気づき
ここで、私の体験を一つお話しします。
あるとき、経済的に余裕がない状況の中で、思い切って出張に参加することを決めました。
経費を抑える工夫はしたものの、それでも大きな投資。正直に言えば「苦しい選択」でした。
これまで私は、組織をまとめるリーダーとして常に前に立ち、周囲を支える役割を担ってきました。
「自分が何とかしなければ」「周りを守らなければ」と、一人で抱え込むことが多かったのです。
ところが、その出張で何日も同じメンバーと顔を合わせる中で、初めて自分の苦しさを吐き出し、相談することができました。
そして、力強く引き上げてもらう体験をしたのです。
ずっと「大丈夫」と言い続けてきた私に、
「絶対大丈夫だから」と声をかけてくれる存在がいました。
心の底から安心でき、「ここをこう頑張れば必ずいける」と具体的な道筋を示してくれるリーダーの存在の大きさを実感しました。
この経験を通して、「頼ることは弱さではなく、次に進むための力になる」と心から気づかされました。
本質に向き合うことを避ける社会
今の社会には「相手を傷つけてはいけない」という風潮があります。
もちろん大切な考え方ですが、その一方で「深く向き合うこと」を避ける関わりも増えています。
- 発せられた言葉の表面だけを捉えて「良い・悪い」で判断してしまう
- 相手の「なぜこの状況を繰り返すのか」という本質的なテーマには触れない
こうした関わりは、一見優しさのようでいて、相手の成長の芽を摘んでしまうことがあります。
本当に大切なのは、相手の背景や想いを汲み取り、なぜその課題を繰り返すのかを共に考えることです。
それが時に厳しい言葉であっても、目的や愛情が伴えば、相手にとって大きな力になります。
苦しさとどう向き合うか ?どこを向き合うか?
私たちは「ずっと繰り返し言われ続けていること」があると、
「自分はダメなのでは?」「否定されているのでは?」と感じがちです。
しかし、そもそもそれを「否定」と捉えてしまうのも、実は認知の偏りです。
繰り返し言われることには理由があります。
それは、まだ成長の伸びしろがあるからなのです。
もっと深く、ぐっと向き合いきることで、成長が起きたときに大きな変化を生みます。
しかも、その変化は自分だけにとどまりません。
あなたと関わる周りの人にとっても、ポジティブな影響が広がっていくのです。
セラピスト養成の場で実感すること
たとえばセッション技術の習得でも同じです。
「また同じことを指摘されてしまった」と落ち込む必要はありません。落ち込んでいるうちは、矢印がクライエントではなく、自分に向いていることでもあるので、もう一度クライエントの未来に、向き合い直してみましょう。
そして、その繰り返しの指摘には意味があります。
セラピスト自身の技術向上はもちろんですが、もっと大切なのはその先にいるクライエントの未来なんです。
深く向き合いきったとき、クライエントの変化は驚くほど大きなものになります。
その感動をセラピスト自身が味わったとき、クライエントとの信頼関係はさらに深まり、「この人なら大丈夫」と心から思ってもらえる存在になれるのです。
繰り返し伝えてくれる人の存在価値
何度も同じことを伝えてくれる人は、実はとても貴重な存在です。
もし本当にどうでもいい相手であれば、わざわざ苦しいことを伝える必要はないからです。
伝える側もまた、心苦しさを抱えながら言葉を発しています。
それでも伝えるのは、今の苦しさではなく、その先の「成長した姿」を信じているから。
「繰り返し伝えてくれる人がいる」という事実自体が、すでにあなたの可能性を示しています。
その思いをどうか大切に受け取ってみてください。
すべてに共通する考え方
この視点は、子育てにも、クライエントへの支援にも、生徒指導にも、ビジネスやお金との向き合い方にも、すべてに共通します。
「成長」には必ず「負荷」が伴います。
筋肉が負荷をかけなければ強くならないように、心や思考も「適切な苦しさ」を経験することでしなやかに育っていきます。
だからこそ
「相手の成長のための苦しさを摘み取らないこと」
これもまた、大事なサポートの力になるのです。
冷たさでも、突き放しでもありません。
「この人は必ず乗り越えられる」と信じているからこそ、相手の苦しさを尊重できます。
そして、相手がその苦しさを乗り越えたときに得られる「軽さ・希望・広がり・循環・豊かさ」。関わる相手より先に、ここを見ていけるかどうかが大切です。
それは周りの人にも伝播し、関係性や環境までも変えていく大きな力になります。
まとめ:苦しさは未来へのサイン
今感じている苦しさは、単なる「悪」ではなく、未来への道しるべかもしれません。
- 苦しさから逃げ続ければ、同じ問題を繰り返す
- 苦しさに向き合えば、軽やかさや希望、広がり、循環、豊かさにつながる
- それがレジリエンス(逆境を乗り越える力)となり、大きな資産になる
「この苦しさは何を教えてくれようとしているのだろう?」
そう自分に問いかけてみてください。
あなたにはすでに、その苦しさと向き合う力が備わっています。
そして、その先にある素晴らしい未来を創っていく力も持っています。
一歩ずつ、一つ一つ進んでいけば大丈夫です。

